神への挑戦
「実際俺もお前と連絡が取れるまで、カツミと一緒に居たんだ。本来なら罪を犯した者でも、夜になれば体を休ませるんだが、カツミは一向に休もうとしないんだ。しきりに何かを待っているというか、何かに備えている様にも見える…自分でも何言っているか分からないが、そんな感じなんだ」

おやっさんの話を聞いた銀次だったが、何を伝えたいのか解りかねていた。

だがこの人は、少年事件に携わってもう20年以上になる大ベテランだ。この発言を有耶無耶にも出来ない。

銀次は詳しく聞こうと、頭を切り替えた。

「例えばだ…例えばだけど、それは何かに脅えている感じか?」

こういう話はエースの方が合うんだが、居ない人間の話をしても仕方がない。

銀次は多くの情報を集め、エースへの土産を用意しようと考えていた。

「脅えか…それとも何か違うな。あくまで達観しているんだ。常に冷静で、何も語ろうとしない。でもカツミの眼は真剣なんだ…今まで見てきた生気を感じないガキどもとは違い、その眼には意思を感じる。でもその意思の強さは、人格からくるものとは違うように見えるんだ。何かこう…あえて自分で意識してやっているように見えるって言えば良いのか…」

詳しく説明しようとしているのだが、どうしても言葉に詰まってしまうおやっさん。

だがそれも無理はない。この事件は今までの若者の傾向とはかけ離れ過ぎている。

刑事のような人間を相手にしている仕事は、ある種の経験がものを言う仕事だ。その経験にない事を体験しているのだから、説明にも困るのも納得である。

というよりも、その経験がこのベテラン刑事を苦しめているといえるだろう。

「うーん…全然見えてこないな。ずいぶんと歯切れが悪いじゃないか。こうビシッといつもみたいにガンと言えないのか?」

文句を言う銀次も、擬音で話している事に気づいているであろうか…。

「お前のいうガンって感じの説明ができないから、お前に相談してるんだよ俺は…お前なら何か知っていると思ったんだが、何もわからなそうだな」

銀次ならなにか情報を持っていると思っていたおやっさんだったが、そのあてが外れたようだ。

少し残念そうな表情をしている。
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