神への挑戦
この時はそれほどこの事件をここまでの大事になるとは少し考えていなかった。どこかの馬鹿がジャッジタウンの名前を使って、情報の撹乱をしているのが関の山だと思っていたんだ。

それに銀次さんやミツハルがこの事件の解明に乗り出していたし、銀次さんが信頼を置いているらしいエースもこの事件の捜査をしていた。

それほど時間もかからずに何かしらの結果が出せると高をくくっていたんだ。でも現実はそんなに甘いものではなかった。

「俺たちは独自に犯人捜しに乗り出したんですが、その捜査の過程でジンの存在が見え隠れしているかもしれないと疑惑を持ったんです。そしてその疑惑は現実のものになった…ジンはミストという組織を指揮して、麻薬の密売を未成年限定でやらせていたんです」

驚くほど静かなこの空間。俺の声だけがこの空間の振動を支配していた。

老人はというと俺の話しを聞いているだけで、呼吸の音すら俺の耳には聞こえてこない。ただじっと俺の眼を見つめ、話に耳を傾けているだけ。

「だがジンの目的は麻薬の密売でひと儲けをする訳ではなかった。ジンの第一の目的は睡蓮会を壊滅に追い込むための下準備をすることだった。未成年を誘導し、睡蓮会の存在を世に知らしめるかの様に椎名製薬工業に襲撃をかけ、世間の注目を集める。そしてその裏では、手薄になった睡蓮会本部への襲撃を同時進行で進め、ねずみ狩りをするかの様に出入り口を封鎖して、全面戦争を仕掛けるかの様にカムフラージュをかけ、睡蓮会の連中すら出し抜いたんです」

そう。睡蓮会本部への襲撃すらもジンのフェイクだったんだ。

ここまでの膨大な下準備をして、これだけの大事にまで発展させたのも全てフェイクだった。あの目の前で起きた惨劇すらも最終目的を果たすための犠牲でしかなかった。

「俺は昨日、睡蓮会本部に進行をしたミストの連中と一緒に居ました。そして深手を負いながらもこうして表に出てこれた…なので俺はあなたに真実を語る事が出来ます。あの場所で何が起きたのかを…」

実のところ銀次にすら伝えていない事がたくさんあった。ゲンの遺言や俺があの場所で行った行為もそうだ。
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