神への挑戦
そして、ハヤトはそんなエース達の話を聞き、平然と返事を返した。

「解った…別に、俺の履歴なんてどうでも良いしな。それが、事件の早期解決に繋がるなら、俺は構わん」

ある意味、裏の世界で生きているハヤトは、正直自分の履歴に関しては無頓着であった。それは、表の世界で生きる事を考えていない、ハヤトだからこその無頓着さでもあった。

「了承してくれたのは、俺としては有難いけど、ハヤトは少し、自分に無頓着すぎるな。俺が言うのもあれだけど、今のご時世、履歴に傷をつけるのは自殺行為だよ?たとえそれが、ジャッジタウンのマスターであっても例外ではない…」

エースは、ハヤトに何かを諭すような口調で話かける。

「ハヤトにも、大切な人はいるでしょ?その人を悲しませる事になるんだよ。それは、職業とは何も関係ない…そしてこの仕事も例外ではない。だから俺は、ハヤトの危険が最小限に済む方法を考える。それが、無茶な仕事を押し付けている俺の責任だからだ」

エースの話に耳を傾けているハヤトではあったが、ハヤトはエースの言っている事を理解はしていないだろう。そしてそれは、話しかけているエースも感じていた事だった。

それは、ハヤトにとって、今までの人生の中で、日本の法律を意識して生活をしてこなかった背景にある。

タバコやケンカは良いが、麻薬はダメ。それは、法律云々ではなく、ジャッジタウンという場所の秩序を重んじているからだ。

ハヤトにとっても、他のジャッジタウンの住人にとっても、ジャッジタウンは最後の砦みたいな場所。社会の逃げ場であり、聖域である場所を守る。

それが、マスターという存在であり、ハヤトの生きている証だった。

だから、体を張れる。だから、自分を疎かにしてしまう…。

エースは、ハヤトという人間をこの時、垣間見た気がしていた。

「そんな事より、麻薬組織を見つける算段はどうするんだ?目星はついているのか?」

ハヤトは、先ほどの話を、『そんな事』の一言で片づけてしまった。
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