神への挑戦
悪循環が続き、自分ではどうしようもなくなる。

眼に見えないプレッシャーは、心身を蝕み、それは、目に見えない病気に繋がる。

それが精神疾患。

うつ病は、10人に一人は一回はかかると言われている病気で、具体的な原因は未だに解っていない。そして、そんな精神病を和らげる魔の薬が…。

「麻薬になるのかな。ある意味、嫌な事から逃げるには、最適な薬なんだろうし。だから、需要も減らないんだろうね…」

エースが車を運転し、東京に向かっている最中、そんな話をしていた。

「だが、麻薬では具体的な解決に繋がらないだろうが。脳の働きも悪くなるって聞くし、自分の寿命を縮めてまで、麻薬を使うメリットなんてあるのか?」

ここで、後部座席に乗っていた、ハヤトが口を挟んだ。ハヤトの中では、麻薬を常用している人間の気持ちが理解出来ないのであろう。

「価値観なんて人それぞれさ。誰しもが、長生きしたいと考えている訳じゃないんだよ。実際、自殺者は年間3万人もいる訳だしね…人は、どれだけ強く生きたいと願っても、何処かで、自分の弱い一面を隠しきれないんだよ。世の中に完璧な人間なんていないのと同じでね」

エースの言っている事は、客観的に見た、人の心理だ。多分それは間違ったことではないし、数字は嘘をつかない。

自殺している人間がたくさん居るの、麻薬を常用している人間もたくさん居るのだから。

だが、言葉ではそれを理解出来ても、自分の中で納得させたくないと考えるのがハヤトという男だった。

頑固で正義感が強い…。世間で忌み嫌われる不良でありながらも、自分の中で、納得のいかない事とは正面からぶつかって行く男。

ハヤトはある意味、不良の一言で解決出来ない、特殊な人間と言えるだろう。
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