神への挑戦
「ここに居る人達は、明日の生活もままらなかった、人達ばかりだ。商店街の客足が遠のき、店を畳むしかなかった商店街の人間の墓場なのさ…そして、そんな老人を保護するだけの余裕は、この国にはない。当然、再就職も出来ない…なぁテツヤ。お前はこんな人達はどうすれば良いと思う?」

シンは、手を抜くことなく、しっかりと仕事をしている老人を見ながら、ハヤトに質問した。そして、ハヤトはシンの質問に答える事が出来なかった…。

何故なら、答えがないから。どう考えても、見つからないのだ…良い方法が。

逆を言えば、悪い方法ならいくらでも見つかる。たとえば目の前に広がっている光景とかな。

「何も見つからないだろ?結局は、自分で仕事を作るしかないのさ…大麻の栽培は犯罪。小学生でも知っている事だ。でも、この大麻のおかげで、ここに居る老人は、死ぬ事なく生活を送る事が出来る。そしてこれが、世の中の真理だと俺は思う…」

シンはそう言うと、仕事に熱中している、老人達の方に歩んで行った。老人達は、シンの姿を見ると、表情を柔らかいものに変え、笑顔で話かける。

「やぁ、シンちゃん。今日も顔を出してくれたのかい?」

「後で、みんなで食べる様に、おはぎを作ったんだ。シンも一緒に食べないかい?」

老人達は、仕事を中断させ、楽しそうに話しかける。

「後で貰うかな…それと、無理をしない程度に頑張ってくれ。働きすぎて、死なれても困るからな」

シンの皮肉を聞いた老人たちは、笑い声をあげた。仕事はどうであれ、ここに居る老人たちは、心から笑っている様に、ハヤトには見えていた。

そしてハヤトは、麻薬の密売のイメージとはかけ離れたこの光景について考えていた。

シンは会ってまもない人間なので、どんな人間かは解らない。だが、ここで働いている老人は、少なくても悪人にも善人でもなく、普通の人の様に見えた。
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