神への挑戦

すると、上座に座っていた人物が、頬杖を突きながら、その男に聞いた。

「通常国会が近いのに、任せても大丈夫なのか？色々と忙しい時期だろう？」

「問題はありまえんよ。私の部下は優秀なので…それに、新参者の私が、皆さんの役に立てるのはこのぐらいしかありませんし」

謙虚なのか、自信過剰なのか、判断しにくい意見を口にした。今回の事件を、解決出来ると言いながらも、自分の力は皆に劣ると発言するところを見ても、太鼓を持ち上げているかの様な、印象を受ける。

何とも心情が解りにくい人間だ。

「まぁ、任せてくれと言うのなら、私は任せようと思うのだが…異論はあるか？」

上座の男に異論はあるかと聞かれても、皆が異論を唱える訳がなかった。誰が好き好んで、問題ごとを引き受ける。

この組織は、ある程度上の立場になれば、それ以上の立場などはない組織だ。従来のピラミット型の組織とは違い、役割がハッキリと決まっている組織なのだから。

下に落ちる事を避ければ良いだけの立場。なので、自分の仕事をしっかりとこなしていれば問題などはなく、わざわざ自分の仕事を増やすメリットはない。

それを解っているからこその、この沈黙なのだろう。

「異論がないのなら、君に任せよう。良い報告を待っている…」

「わかりました。われわれの危険は必ずや排除しますよ…この睡蓮会の危険因子はね」












「月は綺麗だね。こんな場所でも、月と太陽だけは綺麗に見える…」

都心の一等地にある、綺麗に手入れがされている、日本家屋の庭に、一人の年若い青年が、夜空を見上げ、そう呟いた。

その青年の少し後ろには、同世代の青年がその様子をただじっと見ていた。

「子供の頃の俺は、こうやって空を見上げる事すら叶わない夢だった…この世界に生きる人間のほとんどが出来る事が出来かったんだ。空を見上げる…これはこれで、幸せな行為だと思わないかいシンジ？」

「………」

青年は、自分の後ろに居るであろうシンジという青年に、問いかけていた。だが、シンジは、何も答えずに青年に視線を送るだけである。