ミックスラブルス
「そのことはさっき答えたとおりだよ。ただ目にゴミが入っただけだから心配しないで」

ここで笹本くんに甘えてしまうとこれから先自分の意思で高畑くんと向き合えなくなってしまうと思ったから、笹本くんには悪いんだけどと思いながら嘘を再び言った。しかし笹本くんは信用してくれていないのか、返事もせず腕を組みながら真剣に考え込んでしまった。

「高畑くんじゃないのかい?」

「え」

「やっぱりそうなんだ」

「ち、違うよ。本当に目にゴミが入った」

「違うんなら何でそんなに焦っているの?」

腕を組みながら笹本くんは何かを確信した様な様子で高畑くんじゃないのかいといきなり聞いてきた。図星を言われてしまってなぜか自然と焦ってさっき言った嘘をもう一度言おうとしたが、私が焦っていることに気付いた笹本くんは冷静になんで焦っているのと聞いてきた。この時私は自分が嘘を言うのが下手なんだと自覚した。そして素直に白状することにした。

「笹本くんには隠し事もできないね。そうだよ。さっき教室で高畑くんと明西さんが抱き合っているのを見たから、なぜかすごい寂しさに襲われていたの。高畑くんがどんどん私のそばから離れていってしまうって思って」

「やっぱりそういうことだったんだな」

「え、笹本くん」

正直に答えると笹本くんはいきなり私を強く抱きしめて、私の耳に笹本くんの口が触れそうな位置で小さく一言囁いてきた。あまりにも大胆な行動をいきなりやられたせいで私は顔を少し赤くしながらその場に動かずに立っていることしかできなかった。しかしなぜか笹本くんに抱かれていると、安心できるのかとても心地よくって先ほどまで感情的だったのが落ち着いた。

「何で俺じゃだめなんだ」

「それは」

「何で高畑くんじゃなきゃだめなんだ」

「だからそれは」

「俺はこんなに花原さんのことが好きで大切だと思っているのに、花原さんと向き合おうともしない高畑くんじゃなきゃいけないんだ」

もっと私を抱きしめる力を強くしながら笹本くんは私の耳元で力強く告白してきた。だけどそこまでされても私の恋心はまだ高畑くんを求めていた。どうして私は笹本くんにこんなに大切に思われているのにその気持ちに揺らがないのかが自分でも分からなかった。
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