Black in White
海沿いの道の途中、隣で小さく鼻歌を歌いながら歩く小春を見て、龍一は素直に笑顔が零れてくるのを感じた。
薄暗くて、顔がよく見えない安心感の所為だろうか。
「…お前さ、やっぱり変。」
「ん?なぁに?」
「いや…、つかお前の家、こっちなのか?」
前を示して、微かに期待めいた気持ちがある事を自覚する。
小学生、みたいだ。
「うん。あの細い道に入ったとこ……大学に近いから、1人暮らししてるの」
「俺んち、その先。」
「そうなの?意外と近かったね」
にっこりと彼女が笑う度に、それが自分に向けられている事に、酷く安らぎ、そして同時に酷く胸がざわめく自分がいた。
「…あぁ」
送るよ、だなんて紳士的な台詞が自然に出て来るにはあまりにもぎこちない子供のようで。
少しだけ距離をあけて、だけど同じ方向へ2人は歩いた。
頬を撫でる空気が、春の夜風に変わり静かに木々の葉を揺らしていく。
そしてそのまま小春の黒く艶やかな髪をふわりと持ち上げる。
微かに胸に押し寄せる予感は、淡く、甘いような気がした。