Black in White
「まっちゃんスペシャルはねー、実は日替わりなの!毎日色が違うでしょ?」
龍一に仕事の手順などを教えてやるよう任された小春は、例のジュースには特に思い入れがあるようだった。
「ネーミングセンスがねぇ…」
「あ、酷い!あたしがつけたんだよ?」
「余計笑える」
しかめっ面をしたかと思えばまた嬉々として喋りだす。
…何がそんなに楽しいんだ?
小春はいつも不可解だ、自分にとって。
そうは思いつつ、大人しく彼女の熱弁に耳を傾けている自分がいた。
「ノンアルコールのカクテルみたいにしようって…。今日は綺麗なグリーンでしょう?」
ほんの少しだけ、グラスに注いだ液体を窓から射し込む太陽にかざしてみる。
キラキラと光る冷たい水滴。立ち昇る泡が見えてくる。眩しい。
「ヒマなんだな、この店。大丈夫なのか俺なんか雇って」
「もう春休みでしょ?みんなランチとかしてくれるんじゃないかなぁ」
「やだなー、俺、クラスのヤツとか来たら」
「どうして?楽しいじゃない」
「嫌だろ、なんか」
「龍ちゃんって、変」
「ちゃん言うな。変なのはお前だ」
「変同士だ」
「一緒にすんな」
2人の距離が縮まるように、お互いの切り返しが早くなっていることにさえ笑いたくなってしまう。
幼さの拭い去れない笑顔で彼女はこの、微かな高揚の訳を代弁した。
「春って何となく浮かれちゃうよね」
「お前はな」
「もう、またそういう事言うんだから…あ、いらっしゃいませ~っ」
素早く彼女を店員モードにさせたのは、カラン、と開かれた店のドア。
青い花の小さな刺繍のついたエプロンを翻し、今日のお仕事開始だよ、と春のように笑った。