Black in White



「美倉さん、…あの、あいつは?」


あぁ、俺、なんか小学生みたいだ。辛うじてどもらずに言えた、みたいな。

自分の発言にそんな事を考えながら返事を待つと、予想通り美倉知佳は笑った。


「心配しなくたって、ちゃあんともうすぐ来る筈よ」


ふふ、と笑う彼女を見て龍一は気恥ずかしくなって仕事を続行した。

どんどん子供じみていく自分は、きっと、小春の所為。分かるのはそれ位だった。


「小春ちゃん可愛いもんね~。残念、女だらけのここにやっとイケメンが入ったと思ったのに、ねぇ亜矢ちゃん?」

「そうそう、イケメンの友達連れて来てよ神崎くん」

「別に、俺はっ」

「照れちゃって…見かけによらずウブねぇ」

「う………」



喧嘩なら自信のある龍一にも、この2人にはどうも勝てそうにない。というか、この店の女性陣には。

そんな事を考えていたら、背後のドアがガチャリと開けられた。



「おはようございまーすっ!」

「噂をすれば、ね」



美倉の意味ありげな視線に、龍一はどぎまぎするしか無い。


「龍ちゃん!おはようっ」

「……はよ」



こんなにも、女の子と上手く話せないなんて事はなかった。寧ろそういうのは得意な筈だった。

態と戸惑うフリするだとかふと笑顔を見せるとか、無意識に計算するいつもの自分は助けてくれない。

こんなに無愛想で不器用に振る舞ってしまう原因は、計算も損得勘定も追い付いていない事に他ならない。


「今日も頑張ろうね」


自分を馬鹿みたいだと思う反面、どんなありふれた言葉も彼女が使えばとても優しい言葉に思えてしまった。



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