Black in White
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夜が近付く程人足はまばらで、残っている店員も少なくゆったりした空気が流れていた。スピーカーからも同じ曲が廻ってきた。
(雨が降りそうだ)
ぽつり、ぽつりと夕焼け色が灯る程度で、夜景とも言い難い明かりが波にゆらゆらと揺れている。
風は強くはないようだ。
何か…何か今朝、とても重たい夢をみていた気がする。今にも世界を閉じ込めてしまいそうな雨雲を見た時、酷く憂鬱で気だるい溜め息が零れてしまった。
そうだ、よく、分からないんだ。
夜の中ひとりになった瞬間が、酷く、喉の奥を渇かしてしまう。手を伸ばしても掴むものがないような、僅かな苛立ち。
言葉にしてしまえばそれがどれだけ単純で幼い感情か、突き付けられそうで嫌だった。
自分は別に平気なのだと、暇つぶしに夜に出掛けていくだけなのだと、そう思っていたかった。
アルコールを口にしたからって、大人にはなれない。寧ろどんどん駄々をこねるように子供じみていく。背伸びしたがりで、甘えたがりな。
あの黒い髪は、仕事中はいつも2つに結ばれている。彼女の笑顔に惹かれたのは多分、戯れでもなく嘘でもない。
だけどそれだけじゃない。
バイトがあって、良かった。
憂鬱な天気を、眠れない夜を、もっと意味のある事で埋めたかったのだ。
龍一は微かに開いていたドアを、憂鬱を振り払うようにガチャンと閉めた。