Black in White
長文が詰められたその白い紙を、小さな声で読み上げていく。
「んん~?彼女…彼女について、何か…おっど…?」
「大丈夫かよ」
「う~ん…」
小春は唸りながら取り敢えず読み進めていく。小さな円形のテーブルの上で、プリントを覗いて身を乗り出した2人の距離は、知らず知らず息が掛かるほど近い。
「……………。」
沈黙を感じているのは、どうやら自分だけのようだ。
龍一は上目遣いに小春を盗み見た。微かに動く睫に目が離せなくなる。
ひとつ、ふたつ、言葉を紡ぐ、その唇からも。
……―はる、いろ。
それがいつもと同じ感覚なのか、それとも別の何かなのか、龍一にはまだ見当がつかなかった。
吐息が掛かる。心臓が、2人の距離が、縮む。頭の中が、白く何も考えられない。
恐らく…自分、だけ。
「小春ちゃ~んっ!ちょっと来て欲しいんだけど」
龍一が顔をギリギリまで近付けた瞬間、奥の方から彼女を呼ぶ声がした。
「あ、はぁい!」
すぐ傍で小春がバッと立ち上がり駆けて行く。プリントがふわり、と持ち上がりテーブルから滑り落ち、龍一は慌てて手を伸ばした。そしてそれを捕らえた手でそのまま頭を抱えて微かに唸る。
「やべ………」
「青いねぇ」
背後の声に驚きバッと振り返ると、濃い茶色の髪を一つに束ねた店長が嫌な笑みを浮かべて立っていた。