Black in White
1.夕陽の髪
「にゃあ」
聞きこぼしそうな微かな声で、桜の花びらに埋もれたそいつは鳴いた。
何気なくその小さな猫に食べ物を分けてやったのはほんの二週間前。
公園のベンチに座り伸びをすると、唇からは鉄の味がした。
喧嘩の理由なんて殆ど覚えちゃいない。
ただ虫の居所の悪かっただけだ……恐らく相手も。
突然虚しさの込み上げるのを感じて、龍一はすくっと立ち上がった。
グレーの子猫の不思議そうに見上げる瞳と目があって、思わず苦笑が零れる。
「悪ぃな、今日は何も持ってねぇ」
そっと頭を撫でると、止めておいた自転車の元へ向かう。
柔らかく温かい毛に触れると不思議と心が和らいでいくのを感じていた。
「ただいまー…っと、誰もいねぇのか」
乱暴に靴を脱ぐとそのまま階段を上がり、自分の部屋に入った。
着崩した制服のまま、勢い良くベッドにダイブして、溜め息を吐く。
頬の腫れは引いても、モヤモヤは胸に留まった。
学校が嫌いなら龍一は通ったりしない。
たとえ喧嘩や問題ばかり起こしても教師が気に食わないだとか、そういうわけでもない。
ただどうしようもなく、時折空虚のようなものが胸を掠めて堪らなくなってしまうのだ。
「…………。」
トン、と跳ねてベッドから立ち上がると、
小銭をポケットに入れて再び玄関の外へ出た。