Black in White
2.桜の子猫
「ねぇ龍一、今日夜ご飯食べに行かない?女の子いっぱい連れてくしさ」
「悪ぃ、今日はちょっとな」
「またぁ?最近ノリ悪いよねー?」
由香里は探るように大きな瞳で龍一を見上げる。
「俺はこう見えても忙しーんだよ」
「うっそ、全然ヒマそうにしか見えなぁい」
「るせぇ」
「いーもん、タケ誘うから!」
由香里はべーっと舌を出すと派手なブレスレットをじゃらじゃら鳴らしながら駆けていった。
「さて…っと、」
カバンを持ち上げ勢い良く立ち上がった龍一は、教室の窓から海側を見下ろした。
携帯を器用に片手で開いて、今朝見たメールを何気なく確かめる。
それはあの子猫の引き取り手が今日店に来るという内容だった。
送り主は小さな喫茶店「Petite Fleur」で働いている、水島小春。
彼女からメールが来るのは、ごく自然な成り行きでアドレスを聞いてから2度目のことだった。
そんなにあの子猫の事が気になるのか、俺は。
……それとも。
そんな事をぼんやり考えている時点で自分がらしくなくて可笑しくて笑えた。
実際の所がどうであれ、無益で殺伐とした日々に突然訪れた、春風のような新しい日常だった。