Black in White


小さな生命が途端に愛しくなってしまうのは儚さ故か、それとも、愛される為に備わった仕草故なのか。

さほど興味があったわけではないのに、何時の間にか意識に住み着き温度を分け与えられていた。
生きているんだな、と温かい毛に柔らかく触れて当たり前を見つめ直してしまう。


ちいさな、さくら。


そう名付けられたその子猫を、小春の手がふわりと抱き上げる。


「さくら、良かったね」


さくらに真っ直ぐ向けられた笑顔は、彼女の隣に座る名付け親の視線を奪うには充分な威力を放つものだった。
















「うちでバイトしない?放課後とか、休みの日とかだけでも大丈夫だし」



夏子がさくらを連れて帰り、本日最後の客となった龍一に唐突にそう声を掛けたのはエプロン姿の店長…通称“まっちゃん”だった。


「え?俺?」

「そう、龍一くんならすっかりお馴染みの顔だし、やってみない?」

「う~ん…そうだな…」



グラスに残った氷をストローでくるくると回しながら、考える。



「それいいっ、一緒にやろうよ!」

私服に着替え終わった小春が弾んだ声で嬉しそうに2人に駆け寄る。


「………やる」

とても大学生には見えない彼女の仕草にこみ上げる笑いを仏頂面に隠し、殆ど無意識のうちに、即座にそう返事をしていたのだった。



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