【長編】唇に噛みついて


涙が出た。
悔しいけど、あんな男でも好きだったんだ。
ホントはこんな別れ方したくなかった。
でも……しょうがないじゃん。


恋って終わるとどうしてこんなに悲しいんだろう。
辛いんだろう。


「馬鹿野郎~!!」


あたしの叫びがトイレに響き渡った。
その直後。
ゆっくりと入り口の扉が開かれた。


「あ……いた」


その声に涙でグチャグチャになっていたあたしは顔を上げた。
扉の外からあたしを覗きこんできた男。


ブラウンの綺麗な髪。
身長は180センチを遥かに超しているようで。
スラッとしている。
顔も整っていて、あたしは目が逸らせなかった。
でも……。


「あぁ!!」


あたしは思いっきり男の顔を指差した。


こいつ!!
あたしがフラれた後、自転車置き場で女襲ってた奴だ!!


するとキョトンとした男はあたしの顔を見て、あぁっと声を出した。


「あんた今朝泣いてた人、か」


ヤバ。
覚えてるこいつぅー!!


ギョッとして顔を背けると、そいつはあたしの前にしゃがみ込んで顔を覗き込んできた。


「あん時何で泣いてたの?もしかして、男にフラれたーとかぁ?」


っく。
くそー!!


「悪い!?」


何で見ず知らずの男にこんな事言われなきゃいけないんじゃぁ!!


するとフッと鼻で笑ってそいつは言った。


「男に見捨てられちゃったんだぁ。……可哀想」




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