【長編】唇に噛みついて
涙が溢れてきそうで、あたしは逃げるように走り出した。
分かってたのに……。
あいつを好きになっちゃいけない事くらい。
あいつにとって、遊びでしかなくて。
本気じゃないって事分かってたから……。
そんな奴を好きになっても自分が傷つくだけだって。
分かってたのに……。
こんなにも好きになってしまった。
現実に引き戻された感じがして、悲しくなってくる。
もう終わり。
頑張ってメイクしても。
頑張って浴衣着ても。
須藤には……届かない。
こんなに辛い想いしたの……今までで初めてだ。
「っく……」
泣くな……。
こんなとこで泣いたら、メイクボロボロになんじゃん。
周りの人の視線が痛くなるじゃん。
でも……。
溢れてくるよ、ちくしょー。
人気の少ない神社の前でしゃがみこんだ。
それと同時に涙が溢れてきた。
「う~……」
涙を拭っていると、後ろから突然声がした。
「……返事くらい……聞けよ」