【長編】唇に噛みついて


その声に胸がドキッと鳴る。
もう誰なのかは分かってる。
でも、あたしは振り向く事ができなかった。


泣いてる顔見られたくない。
それに……、今須藤の顔を見れないよ。


あたしは俯いたまま黙り込む。
すると須藤はいきなりあたしの腕を掴むと、あたしをグイッと引き寄せた。
あたしはそのせいで須藤の方に体が向いてしまった。
驚きで目を見開くと、須藤は不機嫌そうな顔であたしを見下ろしている。


……嫌。


あたしはとっさに俯くと、須藤はあたしの腕を掴む力を少し強めた。


「何で泣いてんの」


冷たい声でそう聞いてくる。
でもあたしは俯いたまま首を振った。


「別に泣いてない」


「嘘つくなよ」


すぐに須藤はあたしの返事に口を開く。


嘘なのは自分だって分かってる。
涙のせいで須藤の顔が見えないもん。
頬を伝う感覚があるもん。
でも、この嘘を……。
分かってほしいんだよ。
今は、そっとしといてよ。


あたしは涙を拭うと、須藤を見上げた。


「嘘じゃないし。須藤……あんた何でここに来たの?あの子達、待ってるんじゃないの?」


強がった言葉を吐いて、あたしは須藤に背を向けた。
その瞬間、須藤はいきなり後ろから、あたしを羽交い絞めにするように抱き締めた。


「っちょ!?」


突然の事であたしは、慌ててその腕から逃れようとした。
すると須藤はいつもの口調で、呟く。


「俺から逃げられるとでも思ってんの?」


っつぅ~……!!
何なのよぉ、この俺様は。
何でそうやって、あたしの胸を締め付ける事言うのよ。
あたし、それのせいで苦しんでるのに。


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