【長編】唇に噛みついて
「あ、ごめんごめん」
そう言って笑う真弓。
そんなヘラヘラしている真弓を睨んでいると、真弓はニッコリ笑った。
「でもホントよかった」
その笑顔は見た事がないくらい優しくて、あたしは静かに頷いた。
「うん……ありがと」
微笑んでみせると、真弓は満足そうに微笑んで歩き出した。
「よし!じゃぁあたしは、お昼食べて来よ」
そう言って真弓はゆっくりと出て行った。
その後ろ姿を見送ると、あたしは再び鏡を見つめた。
「須藤……こんなに付けやがって……」
独り言を呟いて、あたしはキスマークを睨んだ。
言葉とは裏腹に、あたしの心は何だか温かかった。
真っ赤になった痕……。
その印を見て、思わず微笑む。
何だか……。
須藤が傍にいる気がするよ。
あたしはキスマークに手を添えて、その幸せな気持ちを噛み締めた。