【長編】唇に噛みついて
家に入れられて、須藤は真っ先にバスルームへと向かう。
握られている手は熱を帯びて熱い。
何であたしは即答してしまったんだろう。
あの時……。
あたしは何で頷いてしまったんだろう。
だって!!!
もうやけくそだったんだもん。
それを分かってて、須藤はああやって質問してきたんだ。
あたしがやけくそにどんなお願いも受け入れるの知ってたから。
どうする!?
今更、嫌だなんて通る訳ないよね?
でも……。
やっぱり見られるのは、恥ずかしい。
「ねぇ……ホントに入るの?」
バスルームに入り、あたしは遠慮がちに聞いてみる。
すると須藤は振り返ってあたしを見下ろした。
「は?今更何言ってんの?」
ほら、やっぱりね……。
今更だよね、今更。
でもさ……。
「心の準備がいる、というか……」
何ていうか。
うん、まぁ……。
「乙女心を分かってほしいっていうか……」
これだ!
この言葉が今のあたしの気持ちに1番近い筈!!
女の子は雰囲気が大切なの。
それを分かってほしいのよ!
すると須藤は無表情で言い放つ。
「乙女心なんて知るか。……俺は男だぞ」
だよねー。
もしかしたらって期待してたけど。
須藤は、そんな奴ですよ。
小説とか、漫画みたいに、乙女心を分かってくれる人ではないですよ。
分かってましたよ。(涙)
ため息をついていると、須藤はスッとあたしのカーディガンのボタンに手をかける。
「っちょ!!?」
あたしは反射的に両腕でガードして須藤を睨んだ。