【長編】唇に噛みついて


すると須藤は不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
そして低い声で呟く。


「何?……嫌なの?」


嫌とかじゃなくて……。
そういうんじゃなくて……。


「っう……」


視界がぼやけていく。
すると須藤はギョッとしたように、あたしの顔を覗き込んできた。


「何で、泣いてんだよっ」


「っふ……グス」


もう分かんないよ。
自分でも何がしたくて、何が嫌なのかも分かんないよ。
そんな怖い顔で問い詰められたら、何も言えなくなるよ。


「嫌とかっじゃなくて……は、恥ずかしいんだよお」


男の人に裸見られるのって恥ずかしいんだよ?
ただでさえ、恥ずかしいのに。
好きな人に見られるのってもっと恥ずかしいんだよ?
服1枚脱ぐのにも、ものすごい勇気がいるんだよ?
手が震えるくらい緊張してるのに、そんな言われたら悲しくなっちゃうよ。


好きだから、その恥ずかしさ取っ払って、頑張ろうとしてるのに。
好きだから、望みを叶えてあげたいから頑張るのに。
そんな冷たい目で、あたしの事を見ないで……。


泣きじゃくっていると、須藤はため息をついてあたしを抱き締めた。


「だったら……入るとか、言うなよ。すぐに否定しろよ」


「だってぇ……だってぇ~!!」


やっぱり嫌。なんて言ったら……。


「須藤にっ、嫌われちゃうと思ったからぁ」


須藤の胸にしがみ付いて言うと、須藤はまた大きなため息をついた。
そして大きな手で、あたしの頭を撫でた。


「馬鹿か。俺がそんなんで嫌う訳ないじゃん」


そう言って須藤は、あたしの顎をスッと持ち上げた。


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