【長編】唇に噛みついて


確かにそうだけど。
あたしを連れて行ったのは、水谷だし!
それにこの怒りをぶつけるのは、水谷しかいない。


オドオドしている水谷を見て、あたしは深く溜め息をついた。


「何か……もう疲れた」


あたしはボソッと呟いて肩をガクッと降ろした。
すると水谷はそんなあたしを見て眉を下げた。


「てか、今日その1人と会うんだろ?」


そう言って笑う。


何で……こいつまで知ってるんだろう。
多分、真弓に聞いたんだな。
この噂好きめ。


そう察しては水谷を睨んだ。
そしたら水谷はギョッとして後ずさりをした。


「そ、そんな怒るなよー。おれ、何もしてないじゃんか」


「元はといえばあそこにあたしを連れて行った水谷が悪いんでしょ?」


あたしは行きたくなかったのに。
失恋癒すためにタダ酒って思ってたけど。
変な奴に会って傷えぐられたし。
ホント……最悪。


また溜め息が出た。
今日で何回目?なんて思う。


すると水谷は笑顔を引きつらせながら言った。


「まぁさ。今回だって、別に恋人にならなきゃいけない訳じゃないんだからさ。友達感覚で楽しんで来いよ。な?」


そう言って水谷はあたしから逃げるように走って去って行った。


何かホント全部面倒臭いわ……。
どうせ真弓は行くだろうし。
あたし無理矢理でも連れて行かれるだろうし。
もう適当にまた……酒でも飲むか。


大きく溜め息をついて歩き出した。


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