【長編】唇に噛みついて


感情を失っていた俺は、無意識のうちに、そうやって素直に感情を出せる相手を探していたのかもしれない。


待ってたんだ。
そんな奴に出会えるのを。


だから聖菜につっかかる奴には、妬くし。
近づくなって思う。
俺が見つけた最高の女を……。
取らないでって。
俺の邪魔をするなって。
思うんだ。


花火大会の時は、俺が散々相手してきた女が聖菜を貶してた。
いつもなら、負けずに言い返す、そんな強い性格の聖菜だったけど。
あの時の聖菜は違った。


“そういう行為は、大好きな大切な人とするものなの!大事な行為を軽い気持ちですんじゃないわよ!”


あの言葉は、女に言ってた言葉だったけど。
俺の胸にも響いた。
今までの俺はそうだったから。


“きっと……あんただって、愛を求めてるんでしょ?たった1人の愛を、求めてるんでしょ?”


そう言って聖菜は俺が望んでいる事を見透かしていた。


俺は……誰よりも、愛される事を求めてた。
求められるから答える。そんな事を続けていた俺は。


“本気で愛してほしいなら、自分自身がその人を本気で愛さなきゃ駄目だよ”


その言葉を聞いて、俺の胸に突っかかる全てが解けた。
あの言葉が今の俺を救ったんだ。


俺は……。
聖菜に俺を愛してほしいから。
聖菜を愛する。
全身全霊をかけて、聖菜を愛する。


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