【長編】唇に噛みついて


そう決めたんだ。


ひとつ年を取って、俺はひとつ大人になった。
でも、人はみんな年をとる。
俺がどんなに年をとっても、聖菜は俺と同じく歳をとる。
一生埋まらない年の差。
どんなに頑張っても、その差は決して埋まらない。
頑張ったって聖菜には追いつかない。


でも……。
それでもいい。
今ある全てで、今ある自分自身の全力で。
聖菜を受け止めたい。
聖菜を守ってやりたい。
そう思うんだ。


不器用でごめんな。
思ってもない事ばっか言ってごめん。
意地悪しかできなくてごめん。
素直になれなくてごめん。


でもそんな俺を好きになってくれて。


「……ありがとな」


眠っている聖菜の髪を撫でて小さく呟いた。


“ありがとう”なんて恥ずかしくて面と向かって言えないけど。
そんな俺を許してくれよ。



< 154 / 286 >

この作品をシェア

pagetop