【長編】唇に噛みついて


「きーちゃん」


「…………」


何となく予想をしていた言葉に、あたしは須藤を睨んだ。


「あのさぁ……、物を聞いてるの」


例えば……。
ネックレスとか、ピアスとか……。
いつでも身に付けられる物とかさ?
いろいろあるじゃない。


無難なものだけど、やっぱりプレゼントって言ったらそういうものを浮かべる。
すると須藤は、あたしの頬にスラッと長い指で触れた。
思わず触れた指先にドキッとすると、須藤はフッと微笑んだ。


何っ!?
今の優しい笑顔……。
今まで見た笑顔の中で、1番いいかも。


なんて考えていると、須藤は小さく呟いた。


「だったらさ……」


「ん?」


珍しく聞き取りにくい小さな声に耳を傾けると、須藤は黙り込んでしまった。


どうしたんだろう……。
黙られると困るし。
途中で止められると、気になる。


「何?」


須藤の顔を覗き込み聞いてみると、須藤はフイッと視線を逸らした。


「何でもねぇ……」


はぁ!?
明らかにさっき、あたしに言う事あったよね?
何か言おうとしてたよね?


珍しくはっきり言わない須藤にムッとしつつ、あたしは眉間に皺を寄せて須藤の顔をさらに覗き込んだ。
すると須藤は、チラッとあたしを見て重い口を開いた。


「誕生日プレゼント……」


「うん」


もしかして、ほしいもの決まったのかな?


< 161 / 286 >

この作品をシェア

pagetop