【長編】唇に噛みついて
ジッと須藤を見つめていると、須藤は小さい声で呟いた。
「……名前」
「は?」
名前?
須藤の言葉にあたしはキョトンとする。
すると須藤はキッとあたしを睨んだ。
「名前で呼べよ」
「え?」
「俺の事……苗字じゃなくて、名前で呼べよ」
そう言って須藤はまっすぐにあたしを見つめてくる。
その綺麗な瞳に吸い込まれそうになって、目が逸らせない。
ボーッと見つめていると、須藤はあたしを睨みながら言った。
「お前……櫂とか椎は名前で呼んでんじゃん」
「え?」
須藤の言葉でハッと我に返って、聞き返す。
あたしがボーッとしていた事がバレたのか、須藤は不機嫌そうな顔をしている。
「何で俺だけ須藤な訳?」
そうだ……。
あたし、櫂さんと椎くんって呼んでた。
でも……彼氏である須藤を、苗字で呼んで。
須藤の兄弟を名前で呼んでた。
「それはっ……慣れっていうか」
今までそう呼んでたから。
何となくそのままの流れで、ここまで来ちゃったていうか。
俯いてゴニョゴニョ言ってると、須藤はあたしの両頬に手を添えて顔を上げさせた。
自然と見つめ合う形になると、ふいにドキッとする。
徐々に熱っぽくなるあたしの顔を見て、須藤はフッと目を細めた。
「零って呼べよ」
いつもの命令口調に、あたしの心臓は大きく跳ね上がった。
体の中から、トクントクン……と胸を打つ。
体中に響く胸のドキドキが、須藤に聞こえてしまうのではないかと思ってしまうほどに、あたしの心臓は暴れる。