【長編】唇に噛みついて
「れ……」
「れ?」
あたしの小さな声に須藤はニヤッと笑って耳を傾ける。
「れっ」
「れっ?」
「れっ……ぃ」
プシュゥ~……。
そんな音と共に、あたしは脱力する。
恥ずかしくて湯気が出そうなくらい顔が真っ赤になった。
……駄目だ。恥ずかしい。
人を名前で呼ぶのって、こんなに難しかったっけ?
だって!!!
今まで、“須藤”って呼んでたからぁ!!
須藤をこっそり見上げてみると、須藤はムッとした顔をしている。
その顔を見てギョッとして、あたしはバッと顔を下に向けた。
すると低い声が降ってきた。
「ふーん。櫂と椎は呼べて、俺の事は呼べないんだ」
とびっきり不機嫌で、とびっきり低い声が、あたしの胸を射抜く。
う~……。
恥ずかしいけど、どうにでもなれえ!!
覚悟を決めてギュッと目を瞑り、スカートの裾を掴んだ。
「れ……零!」
名前を呼ぶだけで、こんなにドキドキしてる。
頭がガンガンするくらいに……。
しばらく目をギュッと瞑っていたけど、いつまで経っても反応のない事に気づき、あたしはこっそり顔を上げる。
すると視界に入ってきた須藤を見てキョトンとした。
「え……須藤、どうしたっん!?」
そう口にした途端。
須藤はあたしの首に腕を回して、強引に唇を塞いだ。
「んン~……!?」
何、いきなり!!
正直、するっていう覚悟をしていなかったから、あたしは限界まで目を見開いた。