【長編】唇に噛みついて
予想もしていなかった要求だったけどさ?
でも、やっぱりさ……。
「ねぇ……やっぱりさ」
「ん?」
「何かそれ以外に買ってあげるよ」
だって……。誕生日だもん。
名前で呼ぶようにするってだけじゃ、いけない気がする。
日頃の感謝っていうのもあるし。
あたし社会人だし!!
ほしいものをあげたいって気持ちがある訳よ!
思わず興奮して鼻息を荒くしていると、そんなあたしを零はチラッと見てすぐに視線を逸らした。
「だから……いいって」
「駄目だって!それじゃあたしの気が済まないの!」
零を見上げてギョッとすると、零はうーんと考え込んだ。
そしてゆっくりとあたしを見つめると、あたしの胸元を指差した。
……え?
キョトンとしながらも、指差した場所を辿っていくと、そこにはあたしのつけているネックレスがあった。
前に……気に入って自分で買った、薔薇の形をしたネックレス。
「これが、どうかしたの?」
そう聞いてみると、零はネックレスを見つめたまま口を開いた。
「それがほしい」
……。
「え?」
これ?
「ネックレスがほしいなら、買ってあげるけど……?」
別にこれじゃなくてもいいんじゃ……。
すると零はまっすぐあたしを見つめて首を振った。