【長編】唇に噛みついて
すると身を屈めて零はあたしの顔を覗き込んできた。
そして目と目を見つめ合うと、幼い笑顔を見せた。
「今から……高校生ごっこしようぜ」
その笑顔を見て、あたしはすぐに頷いた。
「うん!」
早足で手を繋ぎながら廊下を歩き出す。
そして向かった先は、図書室だった。
文化祭中、立ち入り禁止になっているらしく人がいない。
静かな図書室に入ると、下から騒ぎ声が小さく聞こえてくる。
同じ校舎の中なのに、図書室だけは別の空間に感じた。
零は棚の上に腰掛けると、意地悪な笑みを浮かべながらあたしに手を差し出した。
「……来いよ」
甘い低い声が、あたしの心臓をドキドキさせる。
赤くなりながらも、その胸に飛び込むように抱きついた。
すると零はあたしをギュッと抱しめてくれた。
そして耳元で小さく囁く。
「……襲ってもいい?」
「っは!?」
咄嗟に顔を上げて零を見ると、ニヤッと笑っている。
あたしは真っ赤になりながら零を睨んだ。
「だ、駄目にっ決まってるでしょ」
そう言うと、零は視線をスッと外して独り言のように言った。
「まぁ、俺も優しいから我慢するか。でもさ……」
ゆっくりと零の手があたしの頬に伸びる。
そして唇をなぞるように指を置くと、唇を見つめながら言った。
「……我慢する代わりに、キスさせろよ」
返事をする隙も与えずに、零はすぐにあたしの唇を塞いだ。
覆いかぶさるように零はあたしの唇を求めてくる。
あたしはギュッと零の腕を掴んでそれを一生懸命に受け止める。
……好き、好き。
そんな想いが唇から溢れ出る。
あたしの気持ちを零は受け止めてくれてる。
そう思うと幸せで仕方なかった。