【長編】唇に噛みついて
「零が……こんなとこでしようとするのが悪いんじゃん!」
そう叫んだ瞬間だった。
ガラッ!と、突然図書室の扉が開く。
「こら!ここは立ち入り禁止だぞ!何やってる」
その声にバッと後ろを振り返ると、先生らしき人が扉の前に立っていた。
短めの黒い髪。
切れ長の目。
スッと上に上がった眉。
少し筋肉のついた長身。
零はあたしの上でため息をついている。
先生とあたしはしばらく見つめ合う。
この人……どこかで。
見覚えのある顔をボーッと見つめていると、あっちもあたしをジーッと見つめている。
そしてあっちは、ハッとしたようにあたしを指差した。
「もしかして……きー?」
「え?」
その呼び方って……。
もしかして。
「りっちゃん!!?」
あたしは目を見開いて、指差す。
すると微笑みながら頷いた。
「そーそー、理人だよ」
自分を指差しながら答えるりっちゃんはニコッと笑った。
その笑顔は小さい頃と変わらない。
あたし達の前にいるのは、紛れもない幼馴染の九条理人(クジョウリヒト)だった。