【長編】唇に噛みついて


「うん。バイバイ」


あたしは笑顔で手を振ると、りっちゃんは図書室を去って行った。
そして振り返ってあたしは口を開く。


「まさかりっちゃんが、ここの先生だったなんてびっくりだよ」


そう独り言を呟いて零を見下ろすと、零は俯いていた。


「零?そろそろ出ようよ」


あたしはゆっくりと振り返って歩き出した。
その瞬間、あたしの腕を零はいきなり掴んで引き寄せる。


……え?


驚いてよろけた瞬間、零の腕が首に回っていきなり唇を奪われる。
今までとは違う深いキス。


「ん!……んン」


何!?
く、苦しい……。


あたしは零の胸を叩いて訴えるけど、零はそれを無視して唇を離そうとしない。
それどころか、さらに深く舌を絡めてくる。


「れっん……やめっ」


涙がこぼれ始めて、頬を伝った時。
零はハッとしたように、唇を離した。


「はぁ……はぁ……」


肩を揺らして息をしながら顔を上げると、零は泣きそうな顔をしていた。


……え?


「れ、ぃ?」


掠れた声で名前を呼ぶと、零は小さく呟いた。


「俺の事……忘れてんじゃねぇよ」


そう言って零は、ニヤッと笑ってあたしの手を握った。
そしてゆっくりと立ち上がると、歩き出す。


……普通に戻ってる。
さっきの零……何かいつもと違ってた。


そう思いながらも、それ以降普通に戻った零を見て、何も言えなかった。


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