【長編】唇に噛みついて


今なら素直になれる。
恥ずかしさも取っ払って、全てをさらけ出せる。


そう思ったから、あたしは静かに零の首に腕を回した。
すると零はあたしの頬に手を伸ばし触れる。
思わずビクッとすると、零は手を軽く引っ込めて口を開いた。


「ホントに……いいの?」


今まで聞いた事もないくらい優しい。
その声を聞いて、体の力が抜けた気がした。


……大丈夫。
零となら……。


「……うん」


小さく零を見つめながら頷くと、零は何も言わずにあたしの鎖骨にキスを落とした。


「んっ……」


吸い付くように触れる唇に、意識がそこへ集中する。
ゆっくりと零は顔を上げると、あたしの髪を撫でながら口を開く。


「もう……止めらんねぇから」


「うん」


そう頷くと、零はゆっくりあたしの胸に手を伸ばしながら深いキスを唇に落とした。


零が好き。
大好き……。


激しくなる息遣いの合間に途切れ途切れに零の声が聞こえてくる。


「聖菜……」


重なり合う間。
ずっと零はあたしの名前を呼んでは、優しく頭を撫でてくれた。
その声を聞くたびに、幸せが溢れてきて涙が出てきた。
今まで感じた事がないくらい幸せに酔いながら……。
あたしは静かに目を閉じた―――……。



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