【長編】唇に噛みついて
もう怒り爆発。
でも……。
ずっとあたしの前で頭を提げている彼氏を見て、あたしはもうどうでもよくなった。
何か馬鹿らしい。
こんな奴を今まで好きだったなんて。
こんな奴に今まで尽くしてたなんて。
はぁ……。
自分が馬鹿らしい。
「もういい……」
「へ!?」
あたしは眉を下げながら彼氏を見下ろして呟いた。
もう全部馬鹿らしくてやってらんない。
こんな会話をしてる事さえ。
時間の無駄。
「別れよ」
もうあたし達にはその道しかない。
もう戻れない。
あたしはそう言って自分のバッグを持つと、ゆっくりと部屋を出た。
ドアを閉めた途端。
涙が出てきた。
悔しくて……。すごく悔しくて。
涙が溢れた。
あたし……頑張ったのに。
あいつは仕事で忙しいからって、なかなか会えないの我慢してたのに。
それでも会える時には、精一杯おしゃれして。
頑張ってたのに。
「っふ……ぅ」
悔しい。
その一言しか出なかった。
泣きながらあたしはゆっくりと自分のマンションへと足を進める。
家に向かう道には、人数の多い街がある。
そこを通る時……。
泣いているあたしとすれ違うとみんなあたしを見た。
でもそんなのあたしは気にならなかった。
ただ悔しくて。
それだけだったから周りなんて見えなかった。