【長編】唇に噛みついて


仕事が早く終わり、あたしは零の学校へと足を進めていた。


真弓と間島くんの話を聞いて、何だか無性に……零に会いたくなった。
意地悪言われたって、からかわれたっていいから。
顔が見たかった。
声が聞きたかった。


校門前に着き、相変わらず大きな校舎があたしの前にそびえる。
放課後に入ったらしく、チラホラと生徒達が校門を潜って出てくる。


……何故だろう。
やけに、みんなから視線を注がれてる気がする。
気のせいって訳じゃないよね?


やっぱあたし……浮いてる!?
おばさんが何でここにいんだよ。みたいな感じで浮いてる!?
どうしよ、どうしよー。
自分でここまで来たけど、今更ながら。
帰りたくなってきた。


てか、もしかしたら……零もう帰ってるかもしんないじゃん。
あたしってばそこまで考えてなかった!


……帰ろうかな。


痛い視線から逃れたくて、校門に背を向け、一歩足を進める。
その瞬間だった。


「きー?」


その声に反応して振り返る。
するとあたしの顔を見た瞬間、ホッとした表情のりっちゃんが立っていた。


「やっぱ、きーだった」


「りっちゃん」


小さく名前を呟くと、りっちゃんはあたしの方に早足で近づいてきた。
そしてあたしの前で立ち止まり口を開く。


「どうしたの?こんなとこで」


「あ……」


……えーっと。
なんて言えばいいのかな。
でも、りっちゃんは零と付き合ってる事知ってるし……。


「零を待ってたの」


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