【長編】唇に噛みついて


そう言って小さく笑うと、りっちゃんは一瞬喉を詰まらせた。


「……そう、だったんだ」


「うん」


頷いてみせると、りっちゃんはしばらく何も言わずにあたしを見つめてくる。
少しの沈黙が続き、その沈黙に戸惑っていると、りっちゃんは口を開いた。


「そういえばさ……」


「ん?」


「須藤の事なんだけどさ。最近授業もほとんど寝てるし、成績も落ちてきてるんだ」


……え?


「前回までのテストでは、1位をキープしてたんだけど。最近になって20位近く落としてる」


「そうなの……?」


「うん。だからさ、きーからも言ってやってよ。気を抜くなって」


髪をクシャッとしながらりっちゃんはため息をついた。
そして言葉を続ける。


「須藤はああ見えて医者を目指してるらしいんだ」


医者……?
そんなの初めて聞いた。


「大学も推薦で決まってたけど、でも今の状態じゃ……」


今の状態じゃ、入学も危ういって事だよね。
成績が落ちてるって事は、そういう事だよね。


「理由はなんだか知らないけどさ。こういう事注意して、ウザいって思う生徒も多いけど、やっぱり将来に必要な事だと思うから」


その時……。
りっちゃんの“将来”って言葉が、酷く強く胸に響いたんだ。


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