【長編】唇に噛みついて
どうして……成績が落ちちゃってるんだろう。
家に帰りエレベーターで自分の階に上がると、部屋の扉の前に零が立っていた。
あたしの存在に気がつくと、零はムスッとした様子で口を開いた。
「遅ぇよ」
「あ……ごめん」
あたしは慌てて扉に駆け寄り、鍵を開ける。
そしてゆっくりと扉を開けて中に入ると、当たり前のように零も入ってきた。
すると入ってきて早々、零はあたしの腕を掴むと、ベッドに引き寄せる。
何の抵抗もする事なく引っ張られると、零はニッと笑ってあたしを抱きしめた。
「きーちゃん不足で死にそうだった」
そう言いながらあたしに覆いかぶさる零。
あたしはギョッとして零の胸を押し返した。
「ちょっと待って!」
あたしの抵抗に零はムッとした顔をする。
「何?」
何って……。
「ねぇ、零。零の将来の夢って何?」
突然のあたしの質問に零はキョトンとする。
「何でそんな事聞くの?」
「え?知りたいなーって思って」
そう言って零を見上げると、零は少しあたしから視線を逸らした。
「……言いたくない」
「何で?」
すぐに聞くと、零はチラッとあたしを見る。
そして小さく呟いた。
「……俺らしくないとか、思われそうだから」
「そんな事ないよ。そんな事思わないから、教えてよ」