【長編】唇に噛みついて


人の夢に、らしいとからしくないとか関係ない。


零の顔をずっと見つめていると、零は折れたようにため息をついた。


「俺、医者になりたいんだ」


りっちゃんの言ってた事は、ホントだったんだ。


胸がスーッと熱くなるのが分かった。
すると零はあたしをキッと睨んだ。


「笑うなよ?」


「え、笑わないよっ。人助けがしたいなんて素敵な夢じゃない」


人助けがしたいだなんて、なかなか言えない事だもん。
笑う訳、ないよ。


ムキになってそう言うと、零の表情がフッと緩んだ。


「そっか……」


そう呟いた零の顔は、今まで見た事がないくらい優しい表情をしていた。
すると零は頭を抱えてため息をついた。


「初めて……人に自分の夢話した」


……零。
気づいてないかもしれないけど。
ホントは、すっごく真っ直ぐな性格してるんだね。
素直なんだね。


「勉強しなよ?」


「は?勉強?」


あたしの言っている事が理解できないらしく零はキョトンとする。


りっちゃんの話を聞いて……。
あたしの頭には零の成績の事でいっぱいだった。
大好きだから、零の将来も大切にしたい。
自分の事以上に、零が大切だから。
それに零のあんな表情を見て、その夢を駄目にしてほしくないって思った。


「りっちゃんが言ってた。零最近成績落ちてるんだって?」


そう言うと、零は少し眉を動かした。


「医者を目指してる事も……。大学進学が危ういのも、聞いた」


俯いていると零を見つめながら、小さな声で呟く。
すると零は、フッと笑った。



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