【長編】唇に噛みついて
「大袈裟過ぎ。そんな大変な事じゃないから」
大変な事じゃない……?
「だって……夢なんでしょ?」
大事な夢なんでしょ?
すると零は微笑みながら言った。
「俺は勉強できるから、受験日近くなってから勉強すれば全然いけんの」
余裕の笑み。
でもその笑みを見ると、あたしは胸が苦しくなった。
本気で言ってるのかな。
こんな事……。
そう思っていると零はあたしの頬に手を伸ばして優しく撫でた。
「そんな事よりも俺は、今こうやってきーちゃんの傍にいる方が大切」
そう言って零はあたしの頬をまた撫でた。
そして微笑みながら口を開いた。
「医者になりたいって夢よりも、きーちゃんを守りたいって夢の方が大きくなった」
ねぇ。
あたし……どうして零の勉強がおろそかになってるのかって考えてた。
あんなに優しい顔で目を輝かせて打ち明けてくれた夢。
それを叶える為に必要な勉強も意欲も。
大切な将来を奪おうとしてるのは……。
……あたし自身だったんだ。