【長編】唇に噛みついて


仕事が終わり……。
あたしは、ある決心をしていた。


今日……零の家に行こう。
そして、ちゃんと話してこよう。
あたしの思いを。
伝えよう……。
零の思いを。
聞こう……。


そう思いながら会社を出ると、すぐ近くでりっちゃんが立っているのが見えた。
その姿に気づき足を止めると、りっちゃんはあたしに気づいて微笑んだ。


どうしたんだろう……。
何で、りっちゃんがここに?


そう疑問を抱いていると、りっちゃんはゆっくりとあたしに歩み寄る。


「よかった。帰っちゃってるかもって不安だったんだ」


「え?」


キョトンとするあたしを見下ろして、りっちゃんは優しい瞳でそっと言う。


「きーの事待ってた」


あたしの……事を?
待ってた?


「どうかしたの?」


そう聞くと、りっちゃんはしばらく黙り込んで、決心したようにもう一度あたしを見下ろした。


「オレ……ずっと、きーに言ってなかった事があったんだ」


あたしを見つめる瞳が力強くて、いつもと違って見えて、あたしは目が逸らせなくなる。
その瞳に捕らえられたみたいに、逃れなくなってあたしはりっちゃんを見上げる。


「……りっ、ちゃん?」


その瞳に戸惑い喉を詰まらせると、りっちゃんはそっと口を開いた。


「オレ……きーの事」


そうりっちゃんが言った直後。
その背後に見えた1人の姿……。
あたしのその姿に、目が逸らせなくなった。


「零……」




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