【長編】唇に噛みついて


もう訳分かんない。
零が怒ってるのは、分かってる。
でも何で?
あたしには零だけなのに……。
あたしの頭の中は零の事でいっぱいなのに……。
何で拒絶するような言い方であたしを突き放すの?


「わかっんない……よ」


この気持ちをぶつけたい。
でも、今何言ったってきっと……。
零は聞こうとしてくれない。
どうしたらいいの?
あたし……。
零に何をしてあげるべきなの?


誰か……。
零……。
教えてよ。


「きー……」


その場に崩れて泣くあたしの後ろで小さな声があたしを呼ぶ。
人が近づいて来た事さえ気づかず、ビクッと肩を震わせ後ろを振り返ると、りっちゃんが立っていた。


涙で前が見えないけど……きっとりっちゃんだ。


あたしは慌てて涙を拭い背を向ける。
りっちゃんに泣き顔を見られたくないから。


「どうしたの?……てか、さっきごめんね。話の途中でいなくなったりして」


強がって平気なフリしてもバレてるって分かってるけど、あたしはわざと明るい声で聞く。
するとりっちゃんは掠れた声で言った。


「きー……」


そうもう一度りっちゃんはあたしの名前を呼んで、りっちゃんはあたしを後ろから優しく包んだ。


……え?


突然背中に感じる温もりに、目を見開いて振り返ろうとする。
するとりっちゃんはあたしの頭を抱えるようにしてそれを拒んだ。


「りっちゃ……」


「オレ……。ずっと……」


りっちゃんの腕の力がギュッと強くなる。
まるで……りっちゃんの気持ちを表してるみたいに。


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