【長編】唇に噛みついて
するとりっちゃんはさらにギュッとあたしを抱きしめた。
「……泣かないで」
そんな優しい声で、そんな事言われたら。
余計泣けてくるじゃん。
「っふ……ぇ」
あたしは必死に声を殺して、涙を堪える。
するとりっちゃんはあたしの頭を優しく撫でた。
「我慢しなくていいよ……。1人で泣くな。オレがついてるから……泣きたいだけ泣きなよ」
零とは違う……温もり。
零とは違う……香り。
零とは違う優しさが、あたしの心にじわじわ染み渡っていく。
それと同時に涙の量は増え、堪える事ができなくなった。
どうして……。
今抱きしめてくれているのは、零じゃないの?
どうして……。
今頭を撫でてくれているのは、零じゃないの?
どうして……。
今あたしの傍にいてくれてるのは、零じゃないの?
どうして……。