【長編】唇に噛みついて
何か……ここまで言われると、払わない方がいい気がする。
大人しく奢られた方がいいみたい。
そう思ったあたしは少し戸惑いながらも口を開いた。
「じゃぁ……ありがと」
小さく頭を提げると、りっちゃんは満足そうに微笑んだ。
そしてあたしの頭をポンポンと叩く。
「うん。お利口」
う……。
何か子供扱いされてる気がする。
複雑な心情で頭を叩かれていると、隣からハハッと笑い声が聞こえてきた。
その声のする方に顔を向けると、受付のおじさんと目が合った。
あ……。
そういえば、ここ。
受付の前だった。
何となく子ども扱いされている事に恥ずかしくなって俯く。
するとおじさんは微笑みながらあたし達に言った。
「いやぁ、仲良になんだね。彼氏さん、彼女が可愛くて仕方ないんだね」
え……。
か、彼女おぉ!?
おじさんの言葉にギョッとしたあたしは慌てて否定しようとする。
「ち、違っ……」
「そう、見えますか?」
違うって言おうとした瞬間。
りっちゃんはあたしの前に立ち、そう言って微笑んだ。
「え?」
思いもしなかったりっちゃんの言葉に固まると、おじさんは笑いながら言った。
「見えるさ。幸せそうで羨ましいよ」
そう答えたおじさんに、りっちゃんは満面の笑みで口を開いた。
「ははっ、そうですか」