【長編】唇に噛みついて


「きー……」


あたしを見下ろし優しく名前を呼んでくるりっちゃんに、あたしは目を逸らせなくなる。


どうしよう。
この空気から抜け出さなきゃ。


そう思った瞬間。
りっちゃんはパッと視線をあたしから逸らすとフッと微笑んだ。


「オレ、きーの笑顔が好きなんだ」


「え?」


「だから……オレ。きーの笑顔の為なら何でもするよ」


「う、うん」


戸惑いながら頷いたあたしの返事を聞いて、満足そうに微笑むとりっちゃんはあたしの頭をポンポン叩いた。
思わず目をギュッと瞑ると、りっちゃんは笑った。


「あははっ」


「え?」


突然笑うりっちゃんにキョトンとする。
するとそんなあたしにりっちゃんは口を開いた。


「いや……。昔と変わんなくて可愛いな」


「何それ?……もう」


完璧子供扱い。
その事に苦笑いしながらため息をつく。
するとりっちゃんはあたしを優しく見下ろして言った。


「今日さ」


「ん?」


りっちゃんの声に上を見上げる。
するとりっちゃんはフッと目を細めた。


「話があるんだ。帰りに……」


話?
何だろう。


まったく想像がつかなかったあたしは、少し首を傾げながらも頷いた。


「うん。……分かった」


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