【長編】唇に噛みついて


それから刻々と時間は過ぎ……。
あたし達は辺りが暗くなりイルミネーションで光り輝く遊園地の出口へ向かって歩いていた。
すると観覧車の横を通り過ぎ、あたしはボーッと観覧車に乗る為に並んでいる人達を見つめた。


「うわぁ……やっぱ今の時間帯って混むんだね」


なんて、独り言を呟く。
夜だけあってか、カップルも増えて、観覧車の前に並ぶのはカップルばかり。


やっぱり……カップルは。
観覧車に乗るんだな。
あたしも……。
零と……。


ふいにまた、楽しくて忘れかけていた寂しさがあたしの胸をいっぱいにした。


黙ったまま遊園地を出て、あたし達は歩く。
見慣れた景色の中、あたしは俯く。


そういえばあたし……。
零とまともなデートした事なかったな。
いつも休みが合っても、零が面倒くさいって言うから。
デートはいつもどっちかの家だったし。
遊園地なんて、来た事ない。


零に……会いたい。


そう思うと、涙が込み上げてきそうになる。


駄目だ、泣いちゃ。
それにりっちゃんの前。
泣いちゃ駄目。
心配かけちゃうもん。


そう思いながら前を見ると、もうあたしの住むマンションが近くにある。


もうすぐで家だ。
それまで……堪えるんだ。


そっと唇を噛み締める。
するとそのせいで遅れ始めて、りっちゃんとの距離が離れ始める。
それに気づいたりっちゃんは不思議そうな顔で振り返ると、首を傾げた。


「きー?どうした?」


近づいてくるりっちゃんに気づき、慌てて少し潤んだ目を擦る。
そんなあたしの動きを見逃さなかったりっちゃんは、少し眉を下げてあたしの顔を覗き込んだ。


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