【長編】唇に噛みついて


あたしの答えに、フッと真弓は微笑む。
そして優しい表情で口を開いた。


「とりあえず……連絡取ってみれば?」


「うん」


頬杖をつきながらそう言う真弓の言葉に頷くと、あたしはバッグから携帯を取り出す。
そして電話帳を開くと、零の携帯番号を探す。


……久しぶりにこの番号を見る。


そう思うと、緊張してくる。
ホントに久しぶりで、変に緊張してしまい指の感覚がおかしい。
少し指先が震えてるのが分かる。
するとあたしの手元を見ていた真弓があたしの手を包むように手を添えた。
それに気づいて顔を上げると、真弓は微笑む。


「大丈夫。あたしがついてる」


その言葉に、あたしはスッと体の力が抜けた気がした。


「うん」


頷いて、もう一度携帯に視線を落とすと、その番号に電話をかける。


プルルル……プルルル……。


呼び出し音が妙に大きく聞こえる。
いつ出るか分からない緊張感に、あたしは息を呑む。


プルルル……プルルル……。


出ない……。
何かしてるのかな。
携帯持ってないのかな。
もしかして……出て、くれないのかな。


なかなか出ない電話に、そんな不安が出てくる。


出ないや。


そう思い、ため息をついて携帯を耳元から離そうとした瞬間だった。


『はい……』


「あ……」


……出た。


零の低い声を聞いた瞬間。
体の力が抜けた。
零の低い声を聞いた瞬間。
目頭が熱くなった。


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