【長編】唇に噛みついて


どうし……よう。
いざ、零の声を聞いたら。
何て言おうとしたのか忘れちゃった。
何を言いたかったのか分かんなくなっちゃった。


すると気づいたら涙が溢れてた。
しばらく黙り込んでいると、電話の向こうから声が聞こえてくる。


『きーちゃん?』


その声にハッと我に返って、慌てて涙を拭うとあたしは口を開く。


「ん……ごめん」


頑張って声を出すけど、完璧な涙声。
こんなんじゃ、零にバレちゃうよ。


『泣いてんの?』


ほら。
バレてる。
でも……。


「普通ズバッとそういう事聞く?」


聞かないよね。
普通……。
何で泣いてるのか知ってるのに。


『あぁ……悪ぃ』


ねぇ……零。
ちょっと焦ってるのかな。
髪をクシャッてしてる音が聞こえてるよ?


「あのね……?」


『うん』


「話したい事があるんだ」


『うん』


「だから……」


会えない?
そう聞こうとしたら、


『じゃぁ、部屋で待ってる』


って先に言ってきた。


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