【長編】唇に噛みついて
「分かった。じゃぁ、今から行ってもいい?」
そう聞いてみると、零は優しい声で言った。
『うん。待ってる』
その言葉を聞いて、少し胸が軽くなった気がした。
少し会話をしてから電話を切ると、あたしは真弓に視線を向ける。
すると真弓はニッと笑った。
「行ってきな」
「え?」
「ちゃんと……報告してよね」
……真弓。
「ありがとね」
そう言うと、真弓はキョトンとした顔をする。
まるで、何でありがとうなの?みたいに。
「真弓のおかげで踏み出す勇気が出た」
すると真弓はニコッと笑う。
その笑顔を見て微笑むと、あたしはバッグを手にとって歩き出した。
大好きな……零の元へ。
まだ、何を話そうかなんて決まってない。
でも……。
今度こそ伝えるんだ。
もうすれ違わないように。
あたしの気持ちをちゃんと伝えるんだ。
覚悟を決めたあたしは、少し早歩きで零の待つマンションへと足を急がせた。
マンションの前に着くと、あたしは前にそびえ立つマンションを見上げた。
いよいよだ……。
グッと拳を握って、エレベーターに乗り込んだ。
エレベーターに乗ってる間も、ドキドキが止まらない。
少しずつ零に近づいてるって思うと。
早く会いたいって気持ちと、まだ着いてほしくないっていう気持ちがごちゃまぜになる。
でも決めたんだ。
逃げないって。
逃げちゃいけない。
いよいよエレベーターが零の部屋の階に着いて、扉が開く。
ゆっくりと足を進めて、角を曲がる。
……その瞬間。