【長編】唇に噛みついて


自分の部屋に戻り……数時間が経った。
ベッドに寝転んでいたあたしは、流れる涙を拭わずに目を瞑った。


すると携帯が鳴る。


~~♪


ゆっくりと体を起こして、携帯に手を伸ばすとあたしは手を止める。
ふと見えたディスプレイに零の名前が表示されていたから。


「……」


どうしよう。
また涙が出そう。
この電話に出たら、別れ話されるかも。
そう思ったら……怖い。
でも、出ない訳にいかないよね。


躊躇いながらも携帯を手に取り、通話ボタンを押した。


「はい……」


『遅ぇよ』


何で、そんないつもと変わらない口調なのよ。
何でよ……。


「ごめん」


そう答えると、零がフッと笑った声が聞こえてきた。
そして後から声が聞こえてくる。


『遅くなって悪かった……。今からでもいいか?』


嫌……。
聞きたくない。
会いたくない。
怖いよ。
別れるなんて嫌だよ。


「ごめん……具合悪いの」


咄嗟に出たのは、逃げる為の言葉だった。
すると零は不機嫌そうな声で言う。


『何だよ急に……。俺も話しあるから、今からお前の部屋行く』


何で。
そんなに焦るの?
早く別れたいって事?


黙っていると、零はすぐに電話を切ってしまった。


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