【長編】唇に噛みついて
零が……来ちゃう。
さっきまでは、会いたいって思ってたのに。
今は……。
会いたくないって気持ちでいっぱいだよ。
ふと視線を落とす。
その直後、部屋のインターホンが鳴らされた。
ピンポーン。
その音が聞こえた瞬間。
あたしの心臓が大きく脈を打つ。
……どうしよう。
零だ。
動けずにその場にしゃがみ込んでいると、しばらくして扉が開き足音が近づいてくる。
そしてすぐに零がリビングに顔を出した。
「聖菜……」
そう小さくあたしの名前を呼ぶと、零はしゃがみ込んでいるあたしに近づいて来た。
するとあたしの泣き顔を見たらしい零は、少し目を見開いてから口を開く。
「おまっ……何で泣いてんだよ」
「泣いてない……」
あたしは慌てて顔を伏せて涙を拭う。
何でって……。
零のせいだよ。
それ以外に何があるんだよ。
唇を噛み締めて涙を堪えていると、零はため息をつく。
そのため息があたしの耳に届いた瞬間。
あたしは零に抱きしめられた。
「れ、い……?」
驚いて名前を呼ぶと、零はギュッとあたしの頭を抱えるように抱きしめてため息をつく。
「何でお前が泣くんだよ……。泣きたいのはこっちだっつーの」
「え?」
キョトンとして顔を上げると、零と目が合う。
普段は目力のある吸い込まれそうな瞳は、どこか潤んで見える。
何で……。
そんな瞳をしてるの?
どうして……。