【長編】唇に噛みついて
すると零は少し目を伏せて口を開く。
「あいつに……告られたんだろ?」
「え……」
あいつって、りっちゃんの事だよね。
何で、零がその事知ってるの?
言葉が出ずに零を見つめていると、零はまっすぐあたしを見つめてくる。
「聖菜は……どうすんの?」
何それ。
いつもは……。
“きーちゃんは俺の”とか言って、あたしの意見なんて無視するくせに。
あたしの意見なんて聞く耳持たないで、いつも強引なくせに。
あたしなんてもう……いらないの?
そんなに……。
「そんなに……別れたいの?」
ボソッと呟いた言葉。
その言葉を聞いた瞬間、零は少し目を見開いた。
「……は?」
零の声が震えた。
でも、顔を上げる事ができなかった。
「あたし……見ちゃったの」
ふと思い浮かんだあの時の光景……。
「友達って、真寿美ちゃんだったんだね」
そう言ってそっと零を見上げると、零は目を見開いて驚いている。
「……見てたのか?」
「零は……忘れ物を取りに来た人を抱きしめるの!?」
みるみる涙が溢れてくる。
まるで何かが壊れたみたいに……。
「零はそんな人じゃないって思ってた!嘘なんてつかないと思ってた!」
真寿美ちゃんがいるなら……。
もっと早く、言ってほしかった。
まだ……。
零の口から直接言ってくれた方が楽だったのに。
「こんなのっ……あんまりだよ」
残酷過ぎるよ、零……。